カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案が19日に衆院を通過、論戦の舞台は参院に移った。政府・与党は今国会の会期を7月22日まで延長し、成立させる構えだ。ただ、議論の大半はカジノの問題に集中し、IRそのものの議論は活発とはいえない。日本で認められるカジノ施設の規模は「IR施設の延べ床面積3%以下」であり、数字だけを見ると、ウエートは決して大きくはない。カジノ問題を軽視するわけではないが、IRの本質について議論の深まりを期待したい。
19日の衆院本会議では、IR実施法案は自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決され、参院に送られた。法案は監督機関である「カジノ管理委員会」の免許を受けた事業者が設けるカジノを刑法の賭博罪の適用除外とすることや、IRの設置数は全国で最大3カ所とし、ギャンブル依存症対策も盛り込んだ。
安倍晋三首相は衆院内閣委員会で、IR像について「これまでにないスケールとクオリティを有する総合的なリゾート施設として、世界中から観光客を集める」と説明している。観光先進国実現に欠かせないとの認識だ。一方、野党側からは「カジノで成り立っているのがIRで、カジノを抜きにIRは考えられない」「カジノ客の大半は日本人ではないか。外国人観光客はどのくらい利用するのか」という反対意見もあり、一致点はなかなか見いだせないのが実情だ。
IR実施法の成立へのハードルはなかなか高そうだが、実現すれば自治体などは具体的な事業者の選定作業に入る。IRについては北海道や千葉県、愛知県、大阪府、福井県、和歌山県、長崎県などが誘致に前向きといわれている。
IRの整備カ所は、誘致を希望する都道府県や政令指定都市が申請し、国が審査して選ぶ。その際、地域の経済波及効果が重視されるようで、自治体からは「大都市が有利になるのでは」と警戒する声も。いずれにしろ枠は三つ。どこが選ばれるのだろうか。
和歌山県は5月、「IR基本構想」を発表した。それによると、和歌浦湾に位置する人工島、和歌山マリーナシティにラグジュアリーホテルや国際会議場・展示場施設、多目的アリーナ、ツアーデスク、駐車場などの整備を想定。建設投資額は約2800億円で、IR来場者数は年間約400万人を見込み、経済波及効果は年間約3千億円、約2万人の雇用創出効果があるとしている。
「IRで消費される財やサービスを優先的に県内調達することで、地域経済の活性化に寄与」するとしている。目指すのはオーストラリアのゴールドコーストやフィリピンのパラニャーケだ。
カジノについては、国の規制に加え、使い過ぎを防ぐためのIRカードの製作、使える額の上限設定のほか、学校での予防教育、ドレスコードの義務付けなど独自の取り組みでギャンブル依存症や破産リスクの軽減に努めるとしている。
6月上旬には和歌山マリーナシティで、事業者向けの現地説明会を開催。事業者10社のほか、県内外の建設業者や飲食業者39社が参加し、ヨットハーバーや黒潮市場を見て回った。着々と布石を打っている。
IRの開業は早くても24年ごろといわれ、話題になるのは20年の東京五輪・パラリンピック後となろうか。参院では大所高所からの議論を期待したい。また、MICEの取り込みや地域活性化、雇用創出、何より観光先進国の実現などを踏まえると、法案の早期成立、実施が望まれる。IRによって観光業が元気になれば言うことはない。